ギモン解決!無線LANミニ知識

ギモン解決!無線LANミニ知識

パソコンが「一家に一台」が普通だった頃、室内の通信と言えば「有線LAN」でケーブルを接続するのが基本でした。
しかし時代の変化とともに、家庭内すべてパソコンを「有線LAN」で補うのは現実的ではなくなりつつあります。
また、「スマートフォン」や「タブレット」端末は「有線LAN」で接続することはまずありません。

そんな時は「無線LAN」の出番!
「無線LAN」で宅内ネットワークを構築すれば、LANケーブルが床を這い回ることもなく、見栄えもすっきりとした住環境・利用環境を作ることができます。
本特集では、無線LANにまつわる情報をわかりやすく解説!あなたの『ギモン』に答えます。
「入門編」で物足りない場合は、さらに深くギモンに迫る もご用意しました。
今後の無線LAN環境構築や改善に、きっと役立つQ&A!
ぜひご覧ください!

無線LANでごちゃごちゃケーブルもスッキリ!

Q:「無線LAN」って何?どういう時に便利なの?

A:無線LAN対応の「パソコン」「スマートフォン」「タブレット」「プリンタ」「ハードディスク」などを、
それぞれ「無線」で接続することができます。

Q:「無線LAN」って、お金かかるの?

A:自宅内の無線LAN通信自体に、お金はかかりません。

Q:ネット回線と「無線LANルーター」さえあれば、うちでも無線LAN環境が導入できるの?

A:パソコンやプリンタなどの「子機」にあたる側にも「無線LAN」機能が必要です。

Q:無線LANルーターを買う時に注意することは何?

A:最大の注意点は、使用可能な「通信規格」と「暗号化規格」が、親機子機で一致すること。

Q:無線LANはどの程度の距離まで届くの?うちの自宅の場合で全ての部屋に届く?

A:「無線LANルーター(親機)」「子機」の機能・性能や、ご自宅の作りなどの「環境」に大きく左右されるため、一概には言えません…。

Q:「最大速度54Mbps」の無線LANルーターなのに、40Mbpsも出ない…なんで?

A:「無線LAN機器」に書かれている伝送速度は「理論上」の「瞬間最大速度」です。
残念ながら、実効速度としては、その速度は絶対に出ません。

Q:「無線LANルーター」はどういうものを買えばいいの?

A:確実とは言えませんが、通信遅延や接続不可のリスクをできるだけ下げるには
「11a/b/g/n/ac/ax対応」「11b/g/n/ax(2.4GHz)、11a/n/ac/ax(5GHz)同時利用可能」「ハイパワー対応」の製品を。

Q:「無線LANルーター」を買う時、お店の店員さんや、提供元メーカーに、何を伝えればいい?

A:利用環境の情報は、多ければ多いほど正確なアドバイスが可能になります。
自宅の状態、利用方法の希望など、できるだけ情報を揃えて聞きましょう。

Q:「無線LAN通信」は海外でも使える?

A:「無線LAN通信」自体は、ほぼ利用可能です。ただし、製品そのものが海外で利用できるかどうかは国によって異なり、別の話になります。
また、国によっては持ち込むだけで法に触れる事も。

入門編はここで終了です。

無線LAN通信は「電波干渉」など、予測のつかないトラブルの可能性があり、導入にはある程度「勇気」が必要となります。

ただ、「失敗=完全に接続不能」というケースは稀で、「速度の遅延」などがありつつも、問題ないレベルで環境が構築できることも多々あります。
そして、増えがちな「ケーブル類」から「有線LANケーブル」が消えることで、快適な住環境が得られたり、モバイル端末の利便性が上がるというような大きなメリットがあることも事実です。

もし、漠然と「無線LAN」の導入を見送ってきたのであれば、また古い無線LAN通信規格の速度に不満があるのであれば、今一度、導入に向けた検討を始めてみては、いかがでしょうか?

なお、「入門編は簡単すぎる!」「購入面に関してのQAはいらない!」「もっと技術的な詳しい話を!」と思った方は、より詳しく踏み込んだをご用意しております。

御用とお急ぎでない方は、ぜひご一読ください。

(注意)本掲載内容は2023年1月時点での情報を基に作成しています。また、広く理解しやすい内容とするため、「例外的内容」「特殊な内容」「厳密かつ正確な記述」など、一部の情報についてはあえて要約・割愛している場合があります。あらかじめご了承ください。

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Q:必ず出てくる「IEEE802.11b云々」って何?何の呪文?

A:無線LANの規格の名前です。その内訳は・・・
「標準化団体の名前」+「委員会名」+「作業部会名」+「タスクグループ名」!

「標準化団体の名前」+「委員会名」+「作業部会名」+「タスクグループ名」

この「IEEE・・・」を見ただけで拒絶反応が起きる人も多いはず・・・!
その意味について詳しく解説してみましょう。
無線LAN規格の代表格「IEEE802.11b」を例にとると・・・

「IEEE」は世界中に会員を持つ、米国発祥・世界最大級の「規格標準化団体」の学会名

読み方は「アイ・トリプル・イー」
正式名称は「The Institute of Electrical and Electronics Engineers, Inc.」
明確に決められた日本語名称は特になく、報道などで「米国電気電子学会(IEEE)」などと言われることが多いようです。

簡単に言えば
「通信・電子・情報工学などの分野で、優秀な技術やルールを吟味して、基本・標準の仕様として発表しよう!」としている団体。
「IEEE」で決められた規格は、最終的に「ISO(国際標準化機構)」で審議され、国際標準として認定されます。

「国際標準」に認定されたからといって「この規格に従って製品を作らなければいけない」なんて事はないのですが、特定の商品が「IEEE」の規格にのっとって世界中で大量に販売されている(されようとしている)場合、互換性を持たせておいた方が商品の利便性や普及の容易さなど、様々な面で有利なため、日本でも準拠製品がこぞって製造・販売されるのです。
そのもっとも身近な例が、無線規格であるこの「IEEE802.11」シリーズ。

「802」は学会内の「委員会」の番号(名称)

「802番目の委員会」というわけではなく、「LAN」に関する標準規格を作成すべく1980年2月に活動を始めたので「802委員会」なんだとか。

「11」は委員会内の「作業部会(小委員会、ワーキンググループ)」の番号)

委員会内で設立順に振られた番号であり、「802委員会内の11番目の作業部会」ということ。
「ワーキンググループ」を略して「WG11」と呼ばれる場合もあります。
「無線LAN」に関する規格の標準化検討のためのグループ」です。
余談ですが、その他の例では、「802.16」は、数年前から広まっている「WiMAX(広域無線アクセス)」だったり、「802.13」は「13」が「不吉」とのことで未使用だったりもします。

「b」は作業部会内の「タスクグループ」を示すアルファベット

「タスクグループ」は「ある目的を達成するための集団」とでも言うべきもので、適当な日本語訳がありません。
感覚的には「チーム」とか、単に「グループ」と言い換えると、多少しっくりくるかも。
グループのアルファベット部分は、上位の「作業部会」に承認された順に「a」から振り分けられており、作業部会「11」の中で2番目に承認されたので「タスクグループb」。略して「TGb」と呼ばれる場合もあります。
なお、時折更新が必要な技術案件のため、「未完了」の意味で小文字の「b」をあてがっています。

※完了し、大文字をあてがった規格で「IEEE802.11F」というものや、規格化を断念した「IEEE802.11T」などがあります。
ちなみに「z」の次からは「aa」「ab」「ac」・・・の順に割り振られます。最近の無線LAN新規格が「11ac」なのはそのため

「タスクグループb」は作業部会「11」が策定した基本的無線LAN規格を「高速化」することを目的としました

つまり!無線規格「IEEE802.11b」とは・・・
「米国電気電子学会」「802委員会」傘下「11番作業部会」「タスクグループb」で策定された規格

《国際的標準化団体→LAN関係委員会→無線LAN関係作業部会→高速化目的集団》
という意味をもっているのです!

Q:11a/b/g/n/ac/axって何?それぞれ何がどう違うの?

A:5Ghz帯を使った「11a」、2.4Ghz帯を使った「11b」、「11b」の改良版「11g」、「11a/b/g」を高速化する「11n」、「11b/g/n」を見切り、「11a/n」をさらに高速化した「11ac」、すべてひっくるめて効率化・高速化に努めた「11ax」。その特徴は・・・一言では語りつくせません・・・

「b」「g」「a」「n」「ac」「ax」の順に性能が良くなる

よく目にする無線LANの種類として、11「a」「b」「g」「n」「ac」「ax」の6種類があります。
その名前が持つ意味は「Q1」でご説明したとおり。

ところが、無線ルーターには「11b/g」「11a/b/g」「11b/g/n」「11a/b/g/n/ac/ax」などなど、組み合わせ多数・・・

なんでこんなことになるのか?なんで「11nのみ」とか「11a/gのみ」といった製品がないのか?

それを理解するには、それぞれの規格の「名前の意味」ではなく、「特徴」と「歴史」を把握する必要があるでしょう。
もし興味が無い場合は、【「b」「g」「a」「n」「ac」「ax」の順に性能が良い】といった程度の把握に留めるのが賢明です。
・・・その性能を「どんな状況でも必ず発揮するわけではない」というのが少々厄介なのですが・・・。

興味を持っていただけたなら、引き続き以降の「Q」をご覧ください。

Q:11aって何?割と昔からちょこちょこ聞いたけど。

A:基本の規格「IEEE802.11」から離れ、高速化を目指したのが「11a」です。

「11a」は当時の最新技術を用いて検討され、「54Mbps」の高速化を実現

無線LANの基本の規格として「11番作業部会」が「IEEE802.11」規格を策定しましたが、「11」は理論値最大速度でも「2Mbps」、実効速度はさらに低く、基礎としては重要でしたが、実用面では問題がありました。
そこでより高速な規格を目指したのが「11a」と「11b」です
「11b」が「11」との互換性を持たせた規格を検討するのに対し、「11a」は「11」にこだわらず、当時の最新技術を用いて検討され、「54Mbps」の高速化を実現。
1999年に晴れて策定されました。

ところが、同時期に策定された「11b」は、対応製品として100ドルを切る低価格製品が策定前後から登場したため、一気に普及
「11a」は欧州向仕様の追加(この「仕様」は、実は「IEEE802.11h」として検討されていました)を策定するのに時間がかかり、製品化は規格策定から数年かかる始末。おかげで「無線LANは11b」と言われるほど、普及率に差がついてしまったのでした

よって「昔からちょこちょこ聞いたなぁ」という印象は間違いではないのです。「11b」とは同期の桜。比較的古い規格なので

以下、「11a」の特徴です。

  1. 基本の規格との互換性にこだわらなかったため、伝送速度が比較的速い
    理論値最大「54Mbps」です。
  2. 使用周波数帯が広いので、近所の無線LANと干渉する可能性が低い
    5GHz帯は、約380MHzの範囲に(現在は)19チャンネル("チャネル"ともいいます)を確保可能。
    近所で「11a」無線規格を使用していてもまず混信しません。
  3. 使用周波数を使う電気製品がほぼないので、他製品の電波と干渉しづらい
    個人所有可能な製品では、アマチュア無線くらい。ただし、気象レーダーなどと干渉することはあります。その際の動作条件がやや厳しく、11aの弱点ともなっています。詳しく知りたい方は「番外編」をご覧ください。
  4. 使用周波数がやや高いため、壁・扉など遮蔽物にやや弱い
    周波数は高いほど遮蔽物に弱いのです。
  5. 普及するのが遅かったので、少し前の製品では対応機器が少なく、値段もやや高め
    価格については改善傾向にあります。

以上のことから「11a」規格は
《そこそこ高速を希望し、混信しやすい集合住宅や、その近隣に住まいがある場合、最適》
と言えました。

Q:11bって何?どんな特徴が?

A:基本の規格「IEEE802.11」と互換性をもちつつ、高速化を目指したのが「11b」です。

対応機器が多く、価格も低い

無線LAN規格の古株と言えば「11b」
基本の規格「IEEE802.11」を高速化しようとした、いわば「11のパワーアップ版」
今でこそ大した伝送速度に感じない「理論値最大速度11Mbps」ですが、規格策定当時は決して「遅い」と言うほどのものではありませんでした。「WindowsXP」すらない時代、「この速度で十分」という判断は無理からぬことだったのです。

「11b」は、低価格機器登場のおかげで急速に広まりましたが、問題もありました。
「11」から引き継いだ使用周波数「2.4GHz帯」は、一般家電や「Bluetooth」なども使用しており電波干渉による速度低下を起こしやすかったのです。理論値最大11Mbpsでも、実効速度は普通その5割程度。そこに干渉も起きるとなれば、速度はさらに落ちてしまいます。パソコンやインターネット回線の高速化もあり、「11b=低速」の評価が広がっていきました。

なお、「11b」普及の経緯については、前の「Q」の「11a」の項を併せてご覧ください。

以下、「11b」の特徴です。

  1. 早い時期から普及したため、対応機器が多く、おかげで価格も低め
  2. 使用周波数帯が低いため、壁・扉など遮蔽物にやや強い
    周波数は低いほど、遮蔽物を透過しやすくなります。
  3. 基本規格と互換性を持たせたため、伝送速度は、今やそれ程速くない
    理論値最大11Mbps
  4. 使用周波数帯帯が狭いので、他の無線LAN機器と電波干渉が起こりやすい
    2.4GHz帯、約100MHzの範囲に4チャンネルしか確保できないため、近所の「11b」がすでに4つ以上あれば遅延は不可避。
    この制限については「11g」が主流になり始めた頃になると、問題視されるようになります。
  5. 使用周波数帯が、他の製品も自由に使える周波数帯のため、他製品の電波との干渉も起こりやすい
    「電子レンジ」「コードレス電話」「Bluetooth」など、同時使用で干渉する製品多数。

そして、低速が際立つ「11b」を高速化すべく「11g」が策定され、無線LANは2003年頃より、「11b/g」の時代へと突入していきます。

Q:11gって何?なんでいつも「11b/g」って表記なの?

A:「11b」と互換性を残したまま、高速化を目指したのが「11g」です。
「11g」は「11b」とも接続できるので、「11g対応」機器は「11b/g対応」と表記されます。

「11b」と互換性がありながら、「11g」製品同士なら伝送速度は「54Mbps」と速い

遅いと評され始めた「11b」を高速化したものが「11g」です。

2003年に策定され、速度は「11a」と同等の理論値最大「54Mbps」
しかも「11b」の機器も使用できる互換性があったため、「11b」機器を持つ人が、ゆくゆくの速度アップを狙いつつ移行するには最適でした。結果「11b」利用者をそのまま引き継ぐ形で「11g」は浸透。手ごろな値段の無線LAN機器は、ほぼ「11b/g」が主流となり、一世を風靡したのでした。

ところが、この広がりが仇となります。
そもそも「2.4GHz帯」で干渉せずに使える周波数チャンネルは「11b」では4つ、「11g」では3つに減少。すなわち、近所に電波が届く無線LANルーターが3台あり、それぞれが「干渉しない3つのチャンネル」を使用している場合、4台目となる自分のルーターは「3台の無線ルーターのどれかの電波と『必ず』干渉する」のです。また、高速化のための技術が「チャンネルを占有」することで成し得ていたため、その影響は大きなものでした。
※「11b」では、ある程度電波チャンネルを分け合って使うような仕組みで、その結果最大速度も低速でした。

2000年代前半、近所の無線LANルーターから届く電波は「1台あるかないか」でしたが、「11b/g」の普及に伴い検知する電波は増加。特にアパート、マンションなどの集合住宅や、その近隣ではその傾向が顕著で、干渉によって「54Mbpsどころか1Mbpsすら出ない」「切断されてしまう」などの不運に見舞われるケースも散見されるようになっていきます。

期待を持って迎えられ、「高速化」でそれなりに評価された「11b/g」は、普及すればするほど、じわじわと人気を落としていくことになりました。
それを受け、俄然注目を浴び始めたのが、雌伏の時を過ごした「11a」です。
対応製品が低価格というわけではありませんでしたが、占有して利用できる電波チャンネルは、法改正のおかげで、策定当初の「4チャンネル」から「19チャンネル」へと増大(2007年)。「11b/g」のような「近所の無線LANと干渉」などはほぼ起きません。しかも「5GHz帯」を使用していることから、個人所有で電波を発する他製品との干渉もほとんど無し。
「11b/g」に追加された形の「11a/b/g」対応製品は徐々に増え、対応製品は低価格の方向へと向き始めたのでした。

以下、「11g」の特徴です。

  1. 「11b」と互換性がありながら、「11g」製品同士なら伝送速度は「54Mbps」と、比較的速い
  2. 「11b」と互換性があるので、「11g」のルーターには「11b」の機器もつながる
    ただし、「11b」と「11g」の機器が混在した場合「11g」側の速度は下がります。
  3. 「11b」と互換性があるので、対応製品が多く、価格も低め
  4. 「11b」と同じ周波数帯のため、壁・扉など遮蔽物にやや強い
  5. 「11b」と同じ周波数帯のため、近隣の無線LANルーターなどと電波干渉が起こりやすい
  6. 「11b」と同じ周波数帯のため、やはり「2.4GHz帯」を使用する他製品の電波との干渉が起こりやすい

以上のことから「11b/g」規格は
《そこそこ高速化を希望し、一軒家などで近隣の電波が入ってきにくい状況で、低価格で環境を構築するのに最適》と言えました。

「11a」も「11b/g」も、「54Mbps」の伝送速度は魅力的でした。しかしそれは理論値であり、実効速度はその半分前後、環境が悪ければそれ以下です。光回線普及もあり無線LAN高速化の声は再び高まっていきました。

Q:11nって何?「11nのみ対応」って製品を見ないけど?

A:「11a」と「11b/g」を高速化をする「仕組み」そのものが「11n」という規格です。
そのため「11nのみ」製品は無く、「11a/n」「11b/g/n」「2.4GHz帯使用11n」などと併記されます。

「11n」は「11a」と「11b/g」を高速化をする「仕組み」そのもの

基本「理論値速度>実効速度」となる無線LAN規格では、「理論値最大54Mbps製品でも遅い!」という不満がくすぶります。
それを払拭するかのように、2009年に策定されたのが「理論値最大600Mbps」の高速化技術「11n」でした。

「11n」がこれまでの「11a」や「11b/g」と大きく異なるのが、「独自の周波数帯を持たない規格」ということ。
「11a」の「5GHz帯」、もしくは「11b/g」の「2.4GHz帯」を使用しつつ、「それらを高速化する技術の規格」です。
そのため「対応」を示す記載では、「11a/n」や「11b/g/n」、両対応の場合「11a/b/g/n」などと、過去の規格と併記されることになります。
※時折「11a」や「11b/g」部分を周波数帯に読み替えて「11a/n」を「5GHz帯11n」、「11b/g/n」を「2.4GHz帯11n」などと、記載されている場合があります。
※また、「11a」「11g」共通の技術を踏まえた上で「11n」で高速化していることから、「11b/n対応」と記載される製品は存在しません。つまり「11b/g/n対応」製品は「11b」「11g」「11g/n」の3種類のいずれかで通信可能、という意味になります。
ちなみに、「11a/nのみ」という製品もほぼ見ませんが、これは単に需要が無いため。

「11n」には以下の2大技術が盛り込まれ、高速化を実現しました。

周波数チャンネルをまとめて使って高速化。「チャンネルボンディング」

「11a(5GHz帯)」であれ「11b/g(2.4GHz帯)」であれ、基本的には「約20Mhz」の範囲を1チャンネルとして使用しています。これを連続した2チャンネル分「約40MHz」で一まとまりにして通信することで、送受信可能なデータ量を倍加しました。機器によっては「倍速モード」などと表現される場合も。
ただしこれは「最大チャンネル数の限界」をさらに圧迫していることにもなっています。「11a(5GHz帯)」19チャンネルは「11a/n」では「9チャンネル」と半減。「11b/g(2.4GHz帯)」で「干渉しあわないのは3チャンネルまで」だったのが、とうとう「11g/n」で「2チャンネルだけ」となってしまいました。

アンテナ増やして高速化。「MIMO(multiple-input and multiple-output)」

非常に単純に言えば、「アンテナを増やして、その分データを分割しつつ同時に送受信すれば、速度は倍になる」という理屈です。11nでは最大4本までのアンテナを利用可能としています。もっとも、その最高速通信をするためには親機子機両方に同数のアンテナが必要です。
※「アンテナ本数=分割したデータの流れの数」ということで、技術的にはアンテナ1本の場合が「1ストリーム」、2本の場合が「2ストリーム」などと呼ばれることがあります。また通信の瞬間の「送信側」と「受信側」のアンテナ関係を表現して、アンテナ1本の場合を「1×1」、4本の場合はを「4×4」という表現がされることもあります。

以上、2点の技術を表にまとめると、「理論値最大速度」はその組み合わせによって以下のようになります。以下の表に照らして「11n対応無線LANルーター」製品の「理論値最大速度」を見ると、その製品の「付属(内蔵含む)アンンテナ本数」と、「チャンネルボンディングの有無」がわかります。「11n対応最大450Mbps」のルーターは、「アンテナ3本+チャンネルポンディング有」と言うことです。

MIMO チャンネルボンディング無(20MHz) チャンネルボンディング有(40MHz)
アンテナ1本のみ 72.2Mbps 150Mbps
アンテナ2本 144.4Mbps 300Mbps
アンテナ3本 216.8Mbps 450Mbps
アンテナ4本 288.9Mbps 600Mbps

※「アンテナ1本」「チャンネルボンディング無」であっても、その他の「11n」規格の技術によって、「11a」や「11g」の「54Mbps」から「72.2Mbps」へ理論値最大速度が向上しています。
※「ビームフォーミング(電波に指向性を持たせて電波範囲を特定方向に長距離化)」など、説明を割愛させていただいた技術も多々ありますので、あらかじめご了承ください。

最近の「11n対応」無線LAN製品のほとんどは「チャンネルボンディング」に対応しています。ただし、「MIMO」については物理的に「アンテナ+機能」が必要であり、かつ相手も持っている必要があるため、最大となる「アンテナ4本(4ストリーム)」対応の製品は対応機器が少なく、高額になりがちです。
よって「11n」の理論値最大速度は「600Mbps」でも、製品としては最大値「300Mbps」や「450Mbps」が主流となっています。

なお、高速化を果たした11nですが、「11a」「11b/g」と同じ周波数を使う関係上、特徴も「11a/n」は「11a」、「11b/g/n」は「11b/g」とほぼ同じメリット・デメリットを持ちます。つまり

  • 「11a/n」は「(11aの)対応製品が少ない」「値段が高め」「電波干渉しづらい」など。
  • 「11b/g/n」では「比較的安価」「電波干渉しやすい(正確には「チャンネル減少」によりさらに干渉しやすい)」など。

もっとも、環境が悪くなければ、過去の規格よりも高速には間違いなく、11nの機能(速度)は大抵の無線LAN製品が対応する「スタンダード」になりました。

しかし、速度向上への追求は終わりません
冗談のような理論値最大速度、「6.9Gbps(≒6900Mbps)」を謳う最新規格「11ac」の登場です。

Q:11acって何?少し前からよく見るけど?

A:2014年1月に正式制定された「11a/nの強化版」です。

2014年1月に正式制定された「11a/nの強化版」

理論値最大では「11n」の「11倍以上」という「6.9Gbps」の超高速規格が、「2014年1月」に正式策定された「11ac」
「11n」と同様、「高速化するための仕組み」の規格です。

大きな特徴として「2.4GHz帯を使っていない(=5Ghz帯のみ使用)」ということがあげられます。
基本規格「802.11」時代より使用されていた「2.4GHz帯」は、「11n(11b/g/n)」で干渉しないチャンネルが「2チャンネル」しか確保できませんでしたが、「11ac」での最高速では、とうとう1チャンネルさえも確保できなくなったのです。もはや実用に耐えず、「11ac」では、「2.4GHz帯」と決別することになりました

「11ac」では、以下のような技術を採用し、「11n」を超える高速化を実現しています。

周波数チャンネルを、もっとまとめて高速化。「チャンネルボンディング強化」

「11n」では「2チャンネル分(40MHz)をまとめて使って高速化」していましたが、「11ac」では「4チャンネル分(80MHz)」「8チャンネル分(160MHz)」をまとめて使って高速化できるよう、仕様に盛り込まれました。これによって単純に言えば「11n」の最大2倍、ないし4倍の速度を可能としています。
ただし、「8チャンネル分(160MHz)」のチャンネルボンディングは「11n」でも触れた「最大チャンネル数の限界」の問題に再び直面します。「11a」で「19チャンネル」、「11a/n」で「9チャンネル」が干渉せず利用できたものが、「8チャンネル分(160MHz)」もの幅を使用するとなると、わずか「2チャンネル」しか確保できません。そのため、最高速のでる「160MHz幅での通信」はあまり実用的ではないと言わざる得ない状況です。
※干渉を避けるような仕組みもありますが、チャンネルの空きが無いなら160MHz幅を減らさざる得ず、速度を犠牲にします。

アンンテナを、もっと増やして高速化。「MIMO強化」

「11n」の「MIMO」では、アンテナ最大数は「4本」まででしたが、これを「11ac」では「8本」まで使用可能になりました。
これによって単純には「11n」の最大2倍の速度を実現しています。
※ただし、ルーター側のみ。ユーザー側(子機側)は最大4本までと規定されています。

「11n」の時と同様に、「チャンネルボンディング」と「MIMO」の関係を表にすると、以下のようになります。

チャンネルボンディング
MIMO 2ch分(40MHz) 4ch分(80MHz) 8ch分(160MHz)
アンテナ1本のみ 200Mbps 433.3Mbps 866.7Mbps
アンテナ2本 400Mbps 866.7Mbps 1733.3Mbps
アンテナ3本 600Mbps 1300Mbps 2340Mbps
アンテナ4本 800Mbps 1733Mbps 3466.7Mbps
アンテナ8本 ※ 1600Mbps 3466.7Mbps 6933.3Mbps
(=6.9Gbps:理論値最大)

※ルーター(親機側)の合計利用本数と速度。子機側はアンテナ4本までが規定としての最大。

※「アンテナ1本」「40MHz使用」であっても、その他の「11ac」規格の技術によって、「11n」の時の「150Mbps」から「200Mbps」へ理論値最大速度が向上しています。また、一応「チャンネルボンディング無し(1ch:20MHz使用)」での接続も可能です。

ただし、前述の通り「1ユーザーに使用できるストリーム(アンテナ)は最大4本まで」という制限もあるので、
利用できる速度としては「アンテナ2~4本」「80MHz使用」の理論値最大「433.3Mbps~1.7Gbps」になる場合がほとんどです。

その他の技術「MU-MIMO(Multi User MIMO)」「変調方式効率化(64QAM→256QAM)」「フレームサイズの拡大」・・・

「11ac」では、その他にも様々な技術が仕様として盛り込まれ、高速化・安定化に寄与しています。
上述の3点のみ、それぞれざっくりと説明すると・・・

  1. MU-MIMO:親機でアンテナ本数が余った場合、別の子機にアンテナを振り分け同時通信可能(効率化・安定化)
  2. 変調方式効率化:通信時に一度に処理できるデータを増加(高速化)
  3. フレームサイズの拡大:通信時に一度に送信できるデータを増加(高速化)

技術的にはもっと複雑な理屈や効果があります。また「11n」の際にあった「ビームフォーミング」などの技術も継承されていますが、とても難解なため詳細は割愛させていただきました。
なんとなく「色々あるんだ」と思っていただければ良いかと思います。

「超高速化」を成し得た「11ac」は徐々に普及し、スタンダードな据え置き型ルーターであればほぼ対応している一般的な規格へと成長しました。
しかし、規格の最高速のためには高額・ハイスペックな親機子機が必要であり、「11nの11倍!」などという高速化の恩恵を受けられることは
個人で入手可能な端末では、ほぼありませんでした。理論では超高速を誇っても、最高速は実用的ではない面があったわけです。
そこで「実際の通信速度の向上」を求めた次の規格「11ax」が登場することになります。

Q:11axって何?なんか『Wi-Fi 6』とか『Wi-Fi 6E』とか言われてもいるみたいなんだけど・・・?

A:「高速化」より「効率化」を求めた最新無線規格。最初の規格「802.11a」から数えて6番目なので「Wi-Fi 6」!
さらに、6GHz帯域を追加した『Wi-Fi 6E』も登場!

「11ac」の高速な伝送速度には、「親機子機のアンテナ数を増やすこと」「チャンネルをまとめて使用すること」の2点を最も必要としていました。これは高速通信のために「機器が高価になる」ということが避けられず、かつ「チャンネルをまとめる際に邪魔になる端末が他にいない」ということが条件になります。

つまり(意地悪く言えば)「高価なスポーツカーが、ほかの車が走っていない『専用のレーシングコース』を走るから速い!」
ということと同じで、「それができりゃ、そうなるよね・・・」とも言える性能でした。

あくまでも最高速を目指した場合であり、少ないアンテナであったり、チャンネルが確保できない場合でも、従来の規格に比べれば「通信のスピードアップ」が図られていましたが、「高速」を謳いながら、実効速度が「目覚ましいくらい高速」と言えないことが多い11acに対しては、不満を抱く人もいたのです。

さらに、家庭の「光回線」の普及が進みつつある現在では、「家庭までは回線速度が速くとも、家庭内の無線が遅くて足を引っ張る」という状況も起こりつつあり、『理論値の最高速がどうか?』などということではなく、実際の「使用時の速度」こそ問題とされていったのでした。

そこで登場したのが、「理論値の最高速」ではなく
「実効速度」の高速化を目指し、「効率化」に努めた

「IEEE802.11ax」すなわち「Wi-Fi 6」!

最高速の改善は1.4倍程度(6.9Gbps→9.6Gbps)と、そこそこの性能アップ(11n→11acの時は「理論値」でなんと「約11倍(600Mbps→6.9Gbps)」も高速化してたりしました・・・)ですが、他の端末が複数ある場合を想定した「実効速度」は、(もちろん状況によるのですが)11acの4倍ほども高速化、遅延も75%低下しているという話もある、期待の最新規格です。

実効速度は数倍以上!?最新規格「11ax」!

ちなみに「Wi-Fi 6」とは、種類も増えて、順番や違いを直感的にはわかりづらくなっている規格名称(「11a」や「11n」「11ac」など)とは別に、
より分かりやすい名称として「Wi-Fi Alliance」によって命名された新たな名称です。

表にすると右記の通り。

「11a」から数えて「6つ目」の代表的Wi-Fi規格なので、「Wi-Fi 6」というわけです。
併せて「11ac」「Wi-Fi 5」「11n」「Wi-Fi 4」とも呼ばれることが決定されました。
ただし、それ以前の「11a」や「11b」については、すでに規格としては古くなっていたからか、「Wi-Fi 2」などと呼ぶことは、規定されていません。

IEEE802.11a 1
IEEE802.11b 2
IEEE802.11g 3
IEEE802.11n Wi-Fi 4
IEEE802.11ac Wi-Fi 5
IEEE802.11ax Wi-Fi 6

ではこの「Wi-Fi 6」こと「IEEE802.11ax」、いったい何がどう変わって「効率化」「実効速度向上」を成し遂げたのでしょうか。

細かく言えばキリがありませんが、向上に大きく貢献した技術は、
OFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple Access:直交周波数分割多元接続)」という技術。ざっくりというと、
「複数の端末からのデータを整理整頓し、同時に通信できる端末を増やす」といったものです。

もう少し詳しく説明すると、無線LANを利用している端末が多い時は、それぞれの通信データを隙間なく通信波に敷き詰めて通信を行い、端末が少なかったり、つながっていても通信していないのであれば、隙間や空いている通信波をまとめて使って高速通信を行う、すなわち「効率化」を実現した技術なんです。

これまで「11a」や「11g」でも「OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:直交周波数分割多重方式)」といわれる効率化の技術が使用されていたのですが、「OFDMA」はその進化版。「OFDM」で使用していた「整理整頓」をより細かく行うことで、ムダを排除しました。 より詳しく知りたい方は、以下の図解をご参照ください。

図解!OFDMA!

11axで登場!「OFDMA」

なお、高速化の工夫は他にも加えられています。

変調方式、さらに効率化(256QAM→1024QAM)

11acの時よりもさらに効率的な変調方式を採用し、1度に処理できるサイズが(単純計算では)4倍になりました。
しかもこの技術、11acにも適用可能となっており、対応している端末であれば、11ac規格での通信速度も向上していたりします。
もし11ac規格の端末なのに、スペック上の通信速度が通常の11acより速い表記になっていることがあったら、この技術を使用している場合アリ。

復活!2.4GHz帯!

「チャンネルポンディング使うと、ほぼチャンネルが確保できない!」ということで、11acの時に決別したはずの「2.4GHz帯」が、なんと復活!
チャンネル内でもルートを分けつつ、個別制御できるようになったため、「帯域をまとめて占拠する」という必要がなくなりました。
おかげで、5GHzだけじゃなく、2.4GHz帯も使用することに。時代に消えていくかと思われた帯域が再び表舞台に返り咲きました。
ただ、2.4GHz帯での通信は、5GHz帯での通信より、若干速度が低下するようです。

MU-MIMO、さらに改善!

今まで「下り通信のみ最大4台同時」の条件だったのが、「上下通信、最大8台同時」の通信が可能に!

さらに帯域拡張された『Wi-Fi 6E』2022年9月よりスタート!

世界各地で普及が進む無線LANにおいて、回線混雑を避けるため帯域拡張は絶えず進められています。日本でも世界標準に合わせるべく法整備が進み、これまで使用可能だった「2.4GHz」「5GHz」帯域に加え「6GHz」帯域の一部の使用が、2022年9月より認可されました。
この追加された「6GHz」帯域に対応した新規格「Wi-Fi 6E(Wi-Fi 6 Extended)」です。
新たに「5925~6425MHz/500MHz幅」が追加されたことで、使用できる帯域はほぼ「倍」に。チャンネルポンディング機能で「8チャンネル分(160MHz)」をまとめて使う場合、「Wi-Fi 6」では2チャンネル分しか確保できませんでしたが、「Wi-Fi 6E」では3チャンネル分追加され計5チャンネル分が確保できるようになりました。
なお、利用には親機子機とも「Wi-Fi 6E」に対応している必要がありますので、ご注意ください。

他にもまだまだ「空間周波数の再利用」「動的フラグメンテーション」「ガードインターバル」などなど、
高速化、効率化に寄与する変更点、新技術が色々とあるのですが、とても難解なため詳細は割愛させていただきます。
11acの時同様、なんとなく「色々あるんだ」とご理解ください。

高速化に突き進んだ無線LAN規格は、単なる速度アップは限界だったのか、「効率化」へと舵を切りました。
「実際に体感できる高速化」を目指した「Wi-Fi 6」こと「IEEE801.11ax」は、「Wi-Fi 6E」への進化も成し遂げ、
これからのスタンダードとしての地位を確立しつつあります。
そして世界では、「遅延の改善」「理論値最大46Gbps」などの高スペックを持つ「Wi-Fi 7」の策定が進んでいます。
「正式化は2024年を予定」であるとか、「日本での法整備完了はその後になる」などの話が囁かれています。
まだまだ発展の止まらない無線LANの世界は、これからも注目です!

Q:「Draft」って何?「11ax Draft準拠」とか書くのを見るけど?

A:「Draft」は「草案」の意味。草案の段階で「正式化すること間違いなし!」と思われる技術を使って製品化した場合には、「~Draft準拠」などと記載されます。

有望かつ利便性の高い技術については「Draft準拠」と銘打って販売

「IEEE802.11」シリーズにおいて、その進捗状況は「草案(=Draft)」などの形で公開されています。 例えば「IEEE802.11ac Draft 1.0」や「IEEE802.11ax(draft)」といった具合にです。

その草案の中で中核を成す高速化などの技術は、基本的にはそのまま正式化される可能性が高い。 また権利などがあるわけではないので、「草案段階の技術を使っちゃいかん!」なんてルールもありません。

よって、各メーカーは有望かつ利便性の高い技術については、正式化する前に製品化してしまい、「Draft準拠」と銘打って販売するのです。これは最近の「11ax」だけではなく、「11ac」や「11n」の正式策定前などの時期にも広く見られました。

ちなみに、近い表現として「~技術」「~規格」「~テクノロジー」などという言い方もあります。「11n」を例にすると「11nの正式化前に、その技術だけ使いました」というときに「11n技術」「11n規格」「11nテクノロジー」と表記されました。

では「11ax Draft準拠製品」や「11ax技術使用製品」は、「11ax正式策定」後、そのまま「11ax準拠製品」として利用できるものなのでしょうか?
答えは「製品による」です。

「11n Draft製品」の時には「そのまま使える(11n準拠と同等)」といった製品もあれば、「ファームウェアアップデートで正式11n準拠になる」というもの、果ては「11n準拠製品と無償交換」したり「11n正式版には準拠しません、あしからず」と開き直ったケースなど、様々なパターンがありました。

その反省からか、「11ac」や「11ax」の時には「Draft準拠」製品が全く使えなくなるということが聞かれることはなく、ファームウェアアップデート、ないしそのまま普通に使用可能だったことがほとんどでした。

今後発売される「Draft準拠製品」についても、おそらくは多くの場合「そのまま正式化規格準拠製品として使用可能」と思われますが、「すべての製品」「すべてのメーカー」とまでは断言できませんので、今後「Draft準拠製品を購入する場合」、または「Draft準拠製品をすでに持っている場合」は、提供元メーカーのHPなどを確認し、「正式化規格準拠製品」と異なる点があるのかどうか、また異なる場合どのような対応になっているのかを、確認するようご注意ください。

Q:「Wi-Fi」って何?「IEEE802.11ac」とかの無線規格と、どう違うの?

A:元々は【「IEEE802.11」シリーズの規格で、同じ規格間であれば相互に接続が可能な製品であると「Wi-Fi Alliance」という団体が認定した】ことを示す「ブランド名」のようなもので、ざっくり捉えて「無線LAN通信」の意味でも使用されます。
また近年では、番号のついた「Wi-Fi 6」などが無線規格の「新名称」として規定されています。

「Wi-Fi」とは「無線LAN通信」の意味

「IEEE802.11b」や「11g」といった無線規格がありますが、ある製品で提供メーカーが「この製品はIEEE802.11b規格に準拠している!」と公言したところで、誰かがチェックしなければ真偽はわかりません

そのチェック団体が「Wi-Fi Alliance(ワイファイ・アライアンス:Wireless Fidelity Alliance)」です。

「Wi-Fi Alliance」は、「11b製品」には「11b」の、「11g製品」には「11g」のチェック試験を用意しており、それをパスした商品には「この製品は、「802.11」シリーズの同じ規格を使う、別のWi-Fi認定製品とは、問題なくつながりますよ」という意味で、「Wi-Fi Alliance」の登録商標である、「Wi-Fi CERTIFIED(ワイファイ・サーティファイド)ロゴ」の使用許可が与えられます。
よく製品パッケージなどにプリントされている「Wi-Fi」と言う文字を含むロゴが、この「「Wi-Fi CERTIFIEDロゴ」です

「Wi-Fi Alliance」が認定活動を始める前までは、「IEEE802.11」規格の「曖昧な部分」を各メーカーが独自で解釈し、製品を開発していたため、「同じ11bの機器同士なのに、メーカーが違うと接続できない!」といった相互接続不可の問題が頻発したそうです。そこで当時の各メーカー数社が「Wi-Fi Alliance(正確にはその前身である「WECA」)」を設立、相互接続を約束する仕組みを構築したのでした。今や参画企業は600社を超えるとか。

もっとも、ただの「認定機関」なので、「そんなの関係ない!」とばかりに、認定を受けない製品も製造・販売可能です。
ただ世界規模の認定団体の「相互接続の約束」がない商品を欲しがる人はまずいません。
現状日本国内販売の「個人向け無線LAN機器」は、ほぼ「Wi-Fi認定」を受けており、未認定の機器を探す方が難しいのです。

※2000年代前半頃発売の無線LAN機器では「Wi-Fiロゴ」が無い場合やWi-Fi未認定の場合があります。これは「Wi-Fiロゴ」自体が2002年頃に作られたこと、および「Wi-Fi認定」の認知度が低かったことが原因です。

※また、一部製品では、「Wi-Fi認定」は受けたものの、「『802.11』の正式規格には準拠していない(Draftにのみ準拠)」といった、「Wi-Fiロゴはあるけど『11ac技術』」といった変則的なものもあります。

このため「Wi-Fi」は「Wi-Fi Allianceが相互接続可能と認定した、『11シリーズ』の無線LAN通信」という意味を持ち、「Wi-Fi対応」「Wi-Fi接続」「Wi-Fiを利用する」などという使われ方をします。すなわち

  • 「Wi-Fi対応」=「Wi-Fi Allianceが相互接続可能と認定した、『11シリーズ』の無線LAN通信に対応」
  • 「Wi-Fi接続」=「Wi-Fi Allianceが相互接続可能と認定した、『11シリーズ』の無線LAN通信での接続」
  • 「Wi-Fiを利用する」=「Wi-Fi Allianceが相互接続可能と認定した、『11シリーズ』の無線LAN通信を利用する」

ということです。

・・・わかりにくいので、単に「Wi-Fi」=「無線LAN通信」と読み替えてしまうと、把握しやすいでしょう。
個人で利用する「無線LAN通信」のほとんどは「Wi-Fi認定」を受けた機器で発信されているものばかりなので、「相互接続を認定した云々」は省いて解釈してしまっても大きな違いにならないのです。

なお、「11ax」の解説でもふれたとおり、「Wi-Fi 5」「Wi-Fi 6」など、「Wi-Fi」+「番号」で表記されることがあります。
これは長く見分けづらい「IEEE802.11ax」という規格名に代わり、よりわかりやすい「ナンバリング規格」として規定されたもので、
2023年2月現在、「11n=Wi-Fi 4」「11ac=Wi-Fi 5」「11ax=Wi-Fi 6」などが呼称として利用されています。

Q:暗号化って何?「WEP」とか「WPA」とか「AES」とかあるけど?

A:他人に無線LAN通信を勝手に使わせたり、通信データを盗まれないようにするために施す設定です。個人でよく利用するのは6種類ありますが、強弱で並べると
「WEP < WPA-PSK(TKIP) ≒ WPA2-PSK(TKIP) < WPA-PSK(AES) ≒ WPA2-PSK(AES) < WPA3」
できるだけ「AES」や「WPA3」の文字が記載された暗号化を使い、「WEP」は可能な限り使用を控えましょう。

他人に無線LAN通信を勝手に使わせたり通信データを盗まれないようにする

無線LAN通信は親機(無線LANルーター)の電波が届く範囲で利用可能であるため、なんら対策を施さないと、他人が勝手に使うことも出来てしまいます。そこを通じて通信データを盗み見されたり、改ざん、破壊されたり、果ては他のPCやデータベースに進入する「踏み台」にされたりしないとも限りません。 ※セキュリティ対策を施さずに「踏み台」にされた場合、「管理不行き届き」として、「全て」ではないにしても、何がしかの責任を問われたり、「踏み台にされた(自分が実行犯ではない)」ことを証明する手間ひまで、相当な損害を被る可能性があります。

なんらセキュリティ対策をせずに無線LNA環境を作ったり、使用を始めたりすることは「問題外」なのです。
ということで、無線LANにおけるもっとも基本的なセキュリティ対策が、無線LAN通信の「暗号化」です。
通信そのものを文字通り「暗号」にすることで、通信データを盗み見されたり、通信を無断で利用されたりするのを防ぎます。

暗号化には以下のような種類があります。
なお、親機子機共に対応していなければ利用できませんので、ご注意を。

WEP (Wired Equivalent Privacy)

無線LAN通信の暗号化におけるもっとも古い規格です。 比較的性能の低い機器でも利用可能であったため、無線LAN登場初期より、暗号化のスタンダードでした。

しかし、この「暗号」の解読方法が確立し、解読ソフトでものの数分、現在では数秒で突破されるほどになってしまったことで、一気に廃れることになります。「WEP」は今や「無いよりマシ」程度のセキュリティ能力しか持っていません。もしご自宅の無線LANルーターが「WEP」にしか対応していない古い物なら、出来るだけ早く買い替えることをオススメします。

なお、他の「WEPしか利用できない機器」を有効活用するために、無線LANルーターの中には「WEPとそれ以外の暗号化キーの同時利用が可能」となっている製品もあります。購入の際に、よく確認してみてください。

WPA-PSK (Wi-Fi Protected Access - Pre-Shared Key)

暗号化の意味を成さなくなった「WEP」に取って代わるための、より強固な暗号化規格が「WPA-PSK」と呼ばれるものです。「WPAパーソナル」とも呼ばれ、省略されて単に「WPA」と呼ぶこともあります。
「WPA-PSK」は、一刻も早く「WEP」の使用を避けたいニーズを反映して利用され始めましたが、実際にはその完成形「WPA2」へのいわば「つなぎ」の規格でもありました。

※後述する「WPA2」規格は「802.11用セキュリティ」として、「IEEE802.11i」で策定されました。その中途段階(Draft3)の仕様を、「Wi-Fi Alliance(ワイファイ・アライアンス)」が「WPA」として認証を開始。各機器で利用されるようになったのです。つまり実はWPAとは「IEEE802.11i Draft規格」ともいえます。
・・・何のことか意味がわからない場合は、ここまでのQAを再度ご覧いただくか、読み飛ばして先に進みましょう。

「WPA-PSK」には、その中核を成す「暗号化方式」によって、さらに2種類に分かれています。

「WPA-PSK(TKIP)」

「TKIP」とは「Temporal Key Integrity Protocol」の略で、「WPA-PSK」認定を受けるためにはその機能を持つことが義務化されている暗号化方式です。「WEP」の暗号化をより「解読しにくいもの」に強化したものですが、「11n」の規格で対応していないことから、通信速度が最大でも「54Mbps」までに制限されます。また現在では解読方法があるため、オススメできません

「WPA-PSK(AES)」

「AES」は「Advanced Encryption Standard」の略で、米軍の関連プロジェクトでも採用された優れもの。「TKIP」ではあった「通信の最大速度制限」も無く、現時点では解読方法のないもっとも強固な暗号化方式です。ただ「WPA-PSK」では「必須の暗号化機能」ではなく「オプション(使ってもいいよ?程度)」の扱いでした。また、「AES」の処理には機器の性能が「TKIP」以上に必要だったこともあって、一部の無線LAN機器には「WPA-PSK(AES)」への切り替え機能を持っていないことがあります。(「TKIP」の危険性が露呈した後は、逆に通常の設定方法では「TKIP」を選択できないようにしている機器もあったようです)

余談ですが、「AES」は「CCMP」という暗号化方式の中で採用されている「暗号化の計算方法(アルゴリズム)」の名前であって、本来は「WPA-PSK(CCMP)」と記載されるべきなのですが、なぜか「AES」の方を記述するのが一般的です。
「CCMP」は「Counter mode with Cipher-block chaining Message authentication code Protocol」の略で・・・と始めると急激に難易度が上がるため割愛いたします。
ようは「可能な限りAESを使ったほうが良い!」ということです。

なお、「WPA」には「WPAエンタープライズ」と呼ばれる規格もありますが、これは基本的に暗号用の専用サーバ(パソコン)を用意して実現する方式です。また「EAP」「EAP-TLS」「EAP-TTLS」「PEAP」「802.1X認証」といった、時折設定画面などで目にする単語も「WPAエンタープライズ」に関する用語です。個人で構築することはほとんどないため、割愛いたしました。

「WPA2-PSK」

「IEEE802.11i」の策定・標準化を受け、「WPA-PSK」の完成形として策定されたのが「WPA2-PSK」です。「WPA2パーソナル」とも呼ばれ、やはり略して「WPA2」とだけ呼ばれることも。具体的に何かが強化されたというよりも、「WPA-PSK」で「オプション」扱いだった「AES」が「必須」になったということが最大の違いです。入れ違いに「TKIP」の方が「オプション」扱いとなりました。

よって、それぞれの規格に対応した機器を比較した場合、大まかに言えば以下のようなものになります。
「WPA-PSK」対応 → 「TKIPは確実に利用できる」 「AESは製品ごとに利用可否が異なる」
「WPA2-PSK」対応 → 「AESは確実に利用できる」 「TKIPは製品ごとに利用可否が異なる」

ときおり「WPA=TKIP」「WPA2=AES」と説明されている場合がありますが、これは正確ではなく、「認定を受ける上で必須かどうか」ということでしかありません。「WPAのAES」も「WPA2のTKIP」も存在し、利用できるかどうかは「製品次第」というだけです。

では肝心の「暗号の強さ」ではどうなのか?
実は「WPA」「WPA2」では「強さ」にほぼ違いは無いようです。
「TKIPよりAESの方が強固」というだけで「WPA-PSK(AES)」と「WPA2-PSK(AES)」の暗号化の強度はほぼ同じとのこと。
Draft規格と正式規格で、理論値最大速度に大きな差がない「11ac」などの場合を考えれば、納得しやすいかと思います。
詳細な点は色々違いますが、結局「WPA2」は「AESを義務付けた」ことで「WPAよりも安全」といわれているに過ぎません。

よって製品購入の観点では「現在WPAでAESを使用しているのであれば、WPA2対応機器への乗り換えはほぼ不要」といえるでしょう。
無論お持ちの「WPA」対応機器が、解読可能な「TKIP」しか利用できないのであれば、早めの買い替えをオススメします。

※「WPA2」にも「WPA2エンタープライズ」が存在しますが、「WPA」の時と同様の理由で、割愛いたします。

なお、WPA/WPA2について2017年11月、「KRACK(Key Reinstallation AttaCKs)(※「KRACKs」と記述されることもあります)」という手法で、通信内容が漏洩しかねない脆弱性が発見されました。

ごくごく簡単にこの攻撃の手法を解説すると、親機子機の間にダミーの親機子機を接続させ通信を中継し、接続手順中にエラーをわざと起こしてリトライを何度も実施させることで、通信暗号化の中核情報を収集、暗号化の解除と通信の傍受・改ざんをしようとする方法です。

この「KRACK」という手法は被害が出てから判明したわけではなく、ベルギーの大学の研究者が発見し関係各所に連絡、対応を考慮したうえで発見が一般公開されましたので、実害は報告されていません。
また「まず最初に、ダミーの親機子機を用意して、ターゲットの親機子機に偽装しつつ、その電波の届く範囲で子機が偽装親機に何とかして接続させる必要がある」という実行性の困難さや、「接続用アプリケーション側で対策を行うことで攻撃を防げる」「『HTTPS』や『VPN利用』などの別途セキュリティが働いている通信の内容が解読されるわけではない」ということもあり、通常はルーターやOS、通信制御ソフト、通信関連のドライバーやファームウェア等を最新のものにアップデートしていれば大きな脅威にはなりません。
ただ各種アップデートをしていない場合、通信内容が漏洩する可能性は残ってしまいますので、何かしらの理由で「OS」や「ルーター」「スマホ」などの通信機器を初期化した場合は、各種ソフトウェアなどを速やかに最新バージョンまでアップデートしましょう。

「WPA3」

上述のWPA2の脆弱性は、プログラム的なアップデートで対策は可能でしたが、WPA2の規格そのものの脆弱性のため、その脆弱性に対応した新規格「WPA3」が2018年6月に「Wi-Fiアライアンス」から発表されました。
「KRACK」の通用しない強固なセキュリティを持つ接続方法を採用し、また「Easy Connect(QRコードを読み取るだけで接続が可能になる機能)」などの新機能も備わって、今後のスタンダードとなりうる暗号化として利用が始まっています。
ただし、そのセキュリティの強固さゆえに、2023年2月現在、後述する「WPS」等の一部接続機能が利用できず、さらには「KRACK」を発見した研究者が、2019年に「WPA3」上でも「Dragonblood (ドラゴンブラッド)」という脆弱性を始めとした複数の脆弱性を発見するなど、前途多難を思わせる状況もあります。
とはいえ、脆弱性については「KRACK」同様ドライバー・ファームウェア等のアップデートで対処ができるものであり、その他機能によりセキュリティ機能はWPA2よりも向上していることから、対応機器をお持ちであれば「WPA2」より「WPA3」を使用するべきでしょう。

※「WPA3」にも「WPA3エンタープライズ」が存在しますが、「WPA」「WP2」の時と同様の理由で、割愛いたします。

以上が「暗号化」として主要な6種類であり、その強度の順に並べると、冒頭でお伝えした
「WEP < WPA-PSK(TKIP) ≒ WPA2-PSK(TKIP) < WPA-PSK(AES) ≒ WPA2-PSK(AES) < WPA3」の順になります。
出来るだけ「WPA2-PSK(AES)」「WPA3」を使用することを心掛けつつ、各ソフトやドライバーといったものは可能な限り最新の状態にしておきましょう。

なお設定方法については、「WPS」「AOSS・AOSS2(バッファロー)」「らくらく無線スタート(NEC)」といった、ワンボタンの自動設定の機能が広まっています。同じ自動設定規格を親機子機が持っていれば(子機がパソコンの場合、専用ソフトを用意すれば)、設定可能な中で最高強度の暗号化を自動で構築するため、上述暗号化を意識しないで済むことも増えつつあります。

ただ、それが自分の利用環境で問題なく使用可能かどうか、機能制限などがないかどうかはお持ちの機器、購入する製品によって変わります。また「WPA3」を使用時には、上述のワンボタン接続機能は利用できないことがほとんどです。(2023年2月現在)
製品購入の際は「簡単」とのキャッチコピーだけで判断せず、メーカーHPを参照するなど、十分確認するようご注意ください。

基礎編はようやくここで終了です。
大変なボリュームでしたが、いかがでしたか?

途中で断念された方、読むまでも無くあきらめた方も多いのではないでしょうか。
もしそうなら、せめて「無線LAN」に関する話は「深い!!」と思っていただければ幸いです。

そして最後まで読破された方。大変お疲れ様でした。
ここに記載された内容を把握しておけば、無線LAN製品の重要な部分の表記は、ほとんど解るようになったのではないでしょうか。

ただ、解説量の都合上、「周波数」や「電波干渉」についてなど、曖昧にした部分もありました。
「11b/gが3ch?家の無線LANルーターは13ch設定できるぞ!!」と気づいた方や、「なんで2.4GHz帯なんか使ったのさ!最初から別の周波数を確保しておけばよかったのに!」と新たなギモンを持たれた方も、いるかもしれません。

そこで蛇足ながら、「基礎編」に続き「電波干渉」についての疑問を主体にした もご用意いたしました。興味があれば、ぜひご一読ください。

(注意)本掲載内容は2023年1月時点での情報を基に作成しています。また、広く理解しやすい内容とするため、「例外的内容」「特殊な内容」「厳密かつ正確な記述」など、一部の情報についてはあえて要約・割愛している場合があります。あらかじめご了承ください。

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Q:「11b/g」で「干渉しないのが3ch」?うちの無線LANルーターは13chも選べるけど・・・?

A:「11b/g/n」で使用される「2.4GHz帯」は、13chの周波数のほとんどが重なっています。
そのため「干渉」が起きないで済むチャンネル数は、「11g」で「最大3ch」になります。

「IEEE802.11b/g」の無線規格では、「2.4GHz帯」という使用周波数のうち「22MHz」を「1ch」として扱っています。
そして2.4GHz帯約100MHzの中に、チャンネルを重複するように配置「13チャンネル(11bでは14チャンネル)」を確保しました。

世界共通となっている「2.4GHz帯」での各チャンネルの分布図

この図は、2014年3月現在、世界共通となっている「2.4GHz帯」での各チャンネルの分布図です。
「1ch」から「5MHz」ずつずらしてチャンネルが定められていることから、非常に電波干渉が起きやすい分布です。
電波干渉を起こさず、もっとも効率よくチャンネルを振り分けようとすると、「1ch」「6ch」「11ch」の「3チャンネル」となってしまうのです。
なお、11bであれば「14ch」も干渉がほぼ無いとみなし、4chになります。そのため「14ch」に干渉しないよう 「11b」や「11g」では「1ch」「6ch」「11ch」を使用するのが一般的です。

※「14ch」が「11bだけ」かつ「日本だけ」なのはなぜ?
これは基本規格「802.11」の策定中、日本では2.4GHz帯の大半を「無線LANでの使用を許可する法律」が無く、この「14ch」の部分だけが法的に許されたためです。
「11」の規格には「日本用チャンネル」として、この周波数帯が盛り込まれました。
現在の番号は「14」ですが、日本ではもっとも古くから使用可能とされていたチャンネルであり、あまり普及しなかった日本向け「802.11対応無線機器」は、この1チャンネルのみ使用可能だったりします。
「1~13ch」までの使用を許可する日本の法整備が整った後、更に「11」と互換性をもった「11b」の正式策定によって、「1~13ch」は世界共通のチャンネル規格となります。
そして、この周波数帯は「14」の番号を与えられ、このチャンネルだけが、他ののチャンネルから少し離れた位置にある「日本でのみ」使用できる特殊なチャンネルとして残りました。 その後、世界標準でなかったこともあり、「11g」策定の際に「14ch」は規格から外れ、それ以降の規格では利用できなくなりました。

ところで「基礎編」でお伝えしたとおり、「11n」には「チャンネルまとめて高速化」の「チャンネルボンディング」という機能が追加されました。
この機能を使って「11g/n」で高速な通信する場合、隣接する2チャンネル(正確には少し重なったチャンネル)をまとめて利用します。つまり「1ch+5ch」や「2ch+6ch」、「7ch+11ch」といった具合にまとめつつ、微調整して「40MHz」を確保することになります。よって最高速度を出す上で、重複を避けられる最大チャンネルは、「1ch+5ch」と「9ch+13ch」の「2chのみ」になってしまいました。もちろんよその「11b/g」対応機器が「6ch」をすでに使用している場合、「11g/n」の高速通信を行おうとしても干渉が避けられず、速度低下が発生します。

※干渉が発生する場合は、チャンネルボンディング無しの「20MHz」で干渉の無い「11g/n」通信をした方が、高速になることがあります。「20MHz」であっても「11g」は理論値最大速度が「54Mbps」、「11g/n」は「72.2Mbps」ですので、「11g/n」を使う意味はそれなりにあると言えるでしょう。

なお最近の無線LANルーターであれば、周囲の利用状況を確認し、「干渉」が発生しにくいチャンネルで自動的に接続する機能が備わっていることが多々あります。とはいえ、干渉しないのは「11b」で4つ、「11g」で3つ、チャンネルボンディング使用の「11g/n」では2つの無線LANルーターまでで、いくら自動でチャンネル変更しようとも、空きが無ければ効果はありません。無線LANが各家庭に浸透すればするほど、「2.4GHz帯」を使用する「11b/g/n」は、安定通信には不利な状況になってしまいました。

Q:なんでそんな狭い周波数帯なの!もっと幅を持たせれば干渉しなかったでしょ!

A:周波数は「有限」かつ「世界中で使用される」ため、簡単に拡張・確保できないのです・・・。

「周波数」は文字通り「波」を数値化しているものですが、それぞれの値で「到達距離」や「反射率」などが細かく変化していくため、「どんな周波数帯でも通信に使える」というわけではありません。
「特定の通信」には、それに適した範囲や出力があり、比較的短距離の利用を想定しつつ、個人で購入可能な低価格機器でデータ通信できる周波数となれば、この「数GHz付近」が適している周波数の一つでした。しかし、この「数GHz付近」であっても、すでに利用中の機器などが多く、勝手に使用したり、拡張したりするわけにはいかないのです。

では「2.4GHz帯」とはどんな周波数帯なのでしょう?
そもそも、「2.4GHz帯」は「ISM(Industry-Science-Medical )バンド」とも言われる周波数帯で、世界最古の国際機関とも言われる「国際電気通信連合(ITU)」が定めた国際法によって「産業、科学、医療用」として使用が認められていました。またそれを受け日本では「低出力なら免許無しで使用可能」と定められています。電子レンジもコードレス電話もBluetoothも、その他さまざまな機器がこの周波数帯を使用しており、11b/g/n対応機器では「これら製品とは干渉します」と、よく注意が促されています。

簡単に言うと、本来ISMバンドは「通信」のための周波数帯ではなく「マイクロ波発生装置」などの工業用、医療用の機器から「周りに迷惑かけずに漏れるだけなら良しとする」ための周波数帯の一つでした。こういう国際法がなければ、軍事通信もレーダーも、あらゆる機器の電波干渉を受ける可能性が発生してしまうため、「何でもあり」の周波数帯が必要だったのです。

つまり、この周波数帯は「ただのノイズ」が放出されやすい、はじめから「通信品質を確保しづらい」周波数といえました。

ではなぜ、無線規格を最初に作った「IEEE802.11」が、この「通信に向かない」周波数帯を選んだのか?
詳細な理由は多々あると思いますが、もっとも重要だったのは「将来性が定かではない無線規格の策定において、利用しやすかった」ことでしょう。 他の周波数帯であれば、「どの国で使えて、どの国でダメ」とか「軍事利用中なので使用厳禁」「もう予約済み」などの事情があり、利用するには相当の壁があります。確保するにしろ、どいてもらうにしろ、かなりの手間と費用が必要で、今後発展するかわからない「802.11無線規格」の検討段階では、「個別の周波数を確保する」のは困難でした。 一方「ISMバンド」であれば基本「何でもあり」と国際的に決まっているため、許可を得るにも障害が少ない。それはつまり「うまくいかなくても影響が少ない」ということでもあり、「世界展開しやすい=普及しやすい」ということでもあります。よって本来なら「専用周波数」を持つ方が「通信品質」にとってはプラスなことは十分知りながらも、「無線規格は2.4GHz帯を使う」として、検討が始まり「802.11」が規格として完成。その後「11」を継承した「11b」策定時において「低価格製品」を生み、「大普及」を実現したのでした。

実際「専用周波数」を確保しようとした「11a」では、「周波数確保」のために性能の高さを売りにする必要があったことから、同時期の検討開始にもかかわらず「11b」の5倍近くの「54Mbps」というとんでもない高速化を目的とせざる得ず、技術的に成し得た後も、欧州向の補足規格(IEEE802.11h)の策定が遅れ、製品化が大幅に遅延。製品の低価格化も進まず、長らく陽の目を見ることができなかったのでした。

今、電波干渉によって不便さばかり強調されつつある「2.4GHz帯=11b/g/n」の無線LAN通信ですが、「2.4GHz帯」であったからこそ、これだけ普及し、次の技術につながる基礎が出来上がったと言えるでしょう。

なお、まったくの余談になりますが、「なぜ2.4GHz帯がISMバンドになったのか?」
諸説あって定かではないのですが、どうやら「米国初の電子レンジ」が「2.4GHzを使っていたから」というのが有力のようです。 1940年代まで「2.4GHz帯」は「軍事通信」などの周波数帯として利用されていました。そこに「電子レンジ」という画期的な調理器具が誕生。その製品がたまたま「2.4GHz帯」のマイクロ波を食品の加熱に使っており、「この製品は調理器具として船舶に積まれ、海外に渡るかも・・・もし海外のレーダーや通信に干渉したら重大な妨害行為として・・・」と危惧した米国が、あわてて「2.4GHz帯」を「ISMバンド」として国際基準とするよう申請、国際電気通信連合(ITU)により決定された・・・というお話。 食品過熱に「2.4GHz帯が必須」というわけでもなく(実際、「電子レンジ」の特許は「3GHz」で申請されているとか。また南北アメリカでは「915MHz」の電子レンジもあるくらいで、「2.6」でも「2.2」でもなく「2.4GHz帯」でなければならなかった理由が不明)、単に製造に有利だったのか、コストが安く済んだからなのかはわかりませんが、「米国初の電子レンジ」は「2.4GHz帯」を使用し、これによって「2.4GHz帯」は「ISMバンド」とする申請が出され、「ISMバンド」となったために、それ以降の電子レンジやその他の製品、そして無線規格「802.11」が「2.4GHz帯」を使用することになった・・・。 これが事実かわかりませんが、「ただの偶然がルールになった」というのは面白い歴史だと思いませんか?

Q:ならチャンネルを重ねたのはなんで?最初から独立した3チャンネルにしなかったのは?

A:普及するためには「少ない親機で多くの子機を」というのが当時の方向性だったのです。
そのため「802.11」と後継の「11b」は、低速ながら比較的混信に強い方式を使っていました。

最初の無線規格「IEEE802.11」策定は「1997年」でしたが、検討が開始されたのは、なんと「1990年」。 「Windows3.0」がようやく発売されたころで、内蔵HDは「無い」か、あってもせいぜい「100MB」、インターネットもメールも一般人には名前すら知られていない。つまり「近距離の無線通信」を考えるときに「数十Mbpsもの速度が必要だ」と想定すれば笑われる時代でした。そんな状況を背景に、無線LAN通信を実現・普及させるために必要なものは何か?と考えた時、「伝送速度」などではなく、「少ない中継器(親機)で、多くの端末が接続可能なこと(=安価に、大勢に)」と考えたのも、自然なことだったのです。

そのため、「11」の「周波数にデータ通信の信号を載せる技術」としては「周波数ホッピング方式」や「直接拡散方式」という、いずれも「高速ではないが、多数の端末接続による混信や、ノイズに比較的強い」方法が盛り込まれています

ちなみにそれぞれの方式を非常にざっくりと説明すると、以下のようになります。

周波数ホッピング方式

特定の周波数内(例えば2.4GHz帯全域)を秒間1000回以上の速さで次々と移動し、特定の周波数ノイズにより破壊されるデータを最小限に抑える方式。

直接拡散方式

特定の周波数(例えば1チャンネル20MHz分)全体にデータを拡散させることで干渉する特定の周波数ノイズからの影響を極小にしようとする方式。

実際、少ない設備(基地局)で多くの端末を繋ぎたい携帯電話各社の目に留まり、その通信方式(CDMA)にもつながる技術となっているほか、「周波数ホッピング方式」は、高速通信を求められることが少なかった「Bluetooth」で採用されていたりします。つまりそれなりに画期的な方法には違いありませんでした。

後継として「1999年」策定の「11b」では「直接拡散方式」の改良版を使用し、「2Mbps」だった「11」の理論値最高速度を「11Mbps」まで高速化しました。しかし、「速度を犠牲にする分、干渉に耐える通信方式」が原型となっていたこともあり、使用チャンネルは「番外編」冒頭の「Q」でご覧いただいたような、ほとんどが重複した仕様とされたのです。また、この方式が将来的に改良されて、混信を克服する可能性についての期待もあったようでした。

こうして、「2.4GHz帯」のチャンネルは、ほとんどが重複した形で現在に至ります。今となっては不評を買う仕様ではありますが、時代背景と、その後の効果を考えたときには、止むを得ないとも言えるのではないでしょうか。

なお、後日談となりますが、パソコンを含むデジタル機器の異常な進化速度により、「11b」は「混信に強いかどうか」のメリットが強調される間もなく、「速度が遅い」というデメリットの方が顕在化してしまいました。よってこの「遅く広く」の方式は「11g」策定時に見直され、方針が転換されます。

「11g」では「直接拡散方式」に見切りをつけ、「11a」で採用されていた「OFDM(直交周波数分割多重方式・きわめて単純にいうと、1チャンネル内に複数のサブキャリア作り、効率よく、かつ隙間無くデータを積み込む方式・詳しくは基礎編「11ax」紹介QAを参照)」を採用、「11a」と同等の理論値最大速度「54Mbps」を達成しました。

しかしこの方式は「速度を出す代わりにチャンネルを占有する」必要があるため、干渉には弱い(干渉時に速度が極端に落ちやすい)方式でもあります。
チャンネルがそれぞれ独立して確保されている「11a」と違い、「11b」と互換性を持たせた「11g」は、「13チャンネルの大半が重複」した仕様のまま。製品発売間も無い、「11b/g」の利用者がまだ少なかった時期には問題となりませんでしたが、時を経て、普及が進むごとに、干渉する機会も増えることになったのでした。

Q:11aでは、そういう「干渉」の問題はないの?

A:「11a」ではほぼありませんが、「11ac」の高速通信では干渉しやすくなったため、「11ax」で対策されました。

「IEEE802.11a」の無線規格では、「5GHz」という使用周波数のうち、「20MHz」を「1ch」として扱っています。
そして、5GHz帯の中に、独立したチャンネルを「19チャンネル」確保しました。以下の図をご覧ください。

日本における「11a」の使用周波数帯とチャンネル図

この図は、日本における「11a」の使用周波数帯とチャンネルなどを示したものです。
カッコ内の周波数は、そのチャンネルや規格のほぼ中心に当たる周波数を表しています。
「5GHz帯」といっても、その全てを無線通信に割り当てているわけではなく、「5170~5330MHz」と「5490~5730MHz」の、約400MHzの範囲を利用しているに過ぎません。
それでも「11b」の2.4GHz帯100MHz分の約4倍の周波数幅を持っています。

この図について、以下にいくつかポイントをご説明します。

W52やW53とは?

周波数を一まとめとして呼ぶための「日本独自」の規格名称です。「J」が日本基準、「W」が世界基準を意味し、数字は(おおよその)中心周波数を表しています(52=5.2GHz、53=5.3GHz、56=5.6GHz)。「11a」は日本での周波数範囲がいろいろと変遷したため、混乱しないよう、このような規格名称が日本でだけ補足としてつけられました。

廃止となった「J52」とは?

「11a」を日本で利用するために、一番最初に設定された「無線LAN通信用5GHz帯」が「J52」のエリアです。「11」の時の「14ch」と同様、日本の法律ではこのエリアしか無線LAN通信に許可されていませんでした。というのも、このすぐ後ろの「5240MHz以降」が「気象レーダー」の観測波として利用されていたからです。日本向けに「IEEE802.11j」という規格で定められました(「j」は偶然であり、「JAPAN」の「j」ではありません)。欧米の状況も同様でしたが、欧米では「W52」エリアを利用可能にする調整に入ります。日本では「J52」を策定して「良し」としてしまったため、後に「W52」エリアなどが世界基準になった際に、慌てて修正を実施、混乱を生むことになりました。

対応製品が発売され始めた2002年頃から2005年頃まで、「11a」の無線通信は「J52」の周波数範囲で行われていました。同時接続可能チャンネルが4チャンネルきりなので、「11b」と比べても同時接続可能チャンネル自体に差はほぼ無かったことになります。もっとも、利用者がまだまだ少なかったので、ルーター同士の干渉などまず無く、気にする人はあまりいませんでしたが。

その後の法整備で、2005年には「J52」は世界標準の「W52」へと移行、「W53」エリアも追加され(正確にはこの際に「J52」「W52」という言い方ができた)、同時接続可能チャンネルは8チャンネルへ増加。続いて2007年に「W56」エリアが利用可能になって、接続可能チャンネルは19チャンネル(2019年7月以降は20チャンネル)を達成。そして2008年6月以降は「J52対応無線LAN機器の新たな製品販売は不可」となり、事実上の「廃止」となったのでした。

W52が屋外使用禁止の理由

正確な点は定かではありませんが、この周波数のすぐ下の周波数帯(5000~5150MHz)を、航空機の「自動着陸誘導システム(MLS)」が使用しています。空港の滑走路先端などに巨大な装置を設置して、飛んでくる飛行機を安全確実に着陸させるためのシステムですが、「絶対に干渉されてはならない通信」ということで、その使用周波数の近くの「J52」ならびに「W52」は「屋外使用禁止」となったようです。もっともこの誘導システムは、世界ではともかく、日本ではほとんど導入が進んでいないとか。

W53が屋外使用禁止の理由

「W53」は「気象レーダー(アメダス)」が使用する周波数の一つでもあります。降雨や雲を測定するのに有効な周波数帯(これ以上周波数が高くとも低くとも、効率が悪い)とのこと。もし「W53」の周波数が、町中で無数に外に漏れ出すと、降雨などによる反射波かどうか見分けが付かず、観測不能となってしまうことから、屋外での使用は禁止となりました。また、屋内使用であっても、後述する「DFS」「TPC」といった機能を有効にして利用することが条件となっています。

W56が屋外使用可能な理由

「W56」は、船舶用、軍事用など、各種レーダーで使用されています。「気象レーダー」とは異なり、日常的に利用するものではないことから「DFS」「TPC」の機能を利用する条件で、屋外使用が可能となったようです。

「DFS」「TPC」とは?また「アドホック接続」が禁止の理由は?

「DFS(Dynamic Frequency Selection)」
「DFS」とは、簡単に言うと、混信時に自動的にチャンネルを移る機能です。
このように書くと「無線干渉に対する便利な機能」のように見えますが、本質は「レーダーを阻害しないための機能」になります。
もしレーダー波をキャッチすると、無線LAN機器は即座に停波、別の空きチャンネルに強制移動の上、そのチャンネルが「W53」ないし「W56」ならば、「1分間」レーダー波がないかどうかを計測してから接続が再開されます。無論、またキャッチされたら即座に停波、移動して「W53」「W56」なら1分待ち・・・、を繰り返すことになります。レーダー波がキャッチされたチャンネルは、30分利用できなくなります。運が悪いと、この機能のために延々と接続ができなくなったりすることもあり、「11a」の弱点の一つとなっています。このような機能であることから、ほとんどの無線LANルーターでは「W53」「W56」使用時に、チャンネルを手動で設定できないようになっています。

なお、「DFS」は、「親機」側の義務であり、子機には不要とされました。つまり「W53」「W56」利用にあたって「DFS」が働かない「子機同士の接続=アドホック接続」は「使用不可」とされたのです。

「TPC(Transmission Power Control)」
「TPC」とは、簡単に言うと、必要以上の電波出力を下げる機能です。
このように書くと「消費電力を下げるエコな機能」のように見えますが、本質はやはり、「レーダーを阻害しないための機能」。屋外へ電波を出さないよう、また屋外使用時に遠方まで電波を飛ばさないよう、電波出力を自動的に下げる機能で、このため、「11b/gと比べて電波が弱い」といった感想を持つケースもあるようです。

※ちなみにこの「DFS」「TPC」の実装が、「11a」の欧州向け補足規格「IEEE802.11h」の主内容であり、この内容が決まるのに時間がかかったため、「11a正式策定」から「11a対応製品販売開始」までに大きく時間がかかることになりました。

ここまでの点を踏まえると、「11a」における「電波干渉の有無」について「ほぼ」無いとご説明した意味はお分かりになるかと思います。20チャンネルを確保しているとはいえ、自由に選べるチャンネルは「W52」の4チャンネル分のみ。環境が悪ければ「W53」や「W56」の周波数帯は利用できない可能性もある。しかも屋外では「W56」のみで、「1分」の待ち時間付き、チャンネル選択は不可、レーダー波がキャッチされれば突然切断・・・。なんら制限が無い「11b/g」の方が、接続状態が良い局面もあるため、「ほぼ」と言わざる得ないのです。

※加えて、周波数の特性として「周波数が高いほど障害物に弱い」ということから、「11aの方が電波が弱い」と感じやすい事もあります。

そして「11a/n」を経た「11ac」では、ある問題が再び立ち上がってきました。
基礎編ですでに触れたことの繰り返しとなりますが、それぞれの「高速通信」で使用される「チャンネルボンディング」が、「2.4GHz帯」で問題となった「チャンネル不足」を再発しつつあったのです。

改めてお伝えすると、「11a/n」で最高速度を出そうとした際の「チャンネルボンディング」は、2チャンネル分40MHzの占有で、使用可能チャンネルは10接続分。「11ac」に至っては4チャンネル(80MHz)分占有の時は、確保できるのは5接続分、最大速度である8チャンネル(160MHz)分占有ではわずか2接続分となってしまいました。つまり「高速」にしようとすればするほど、「まず接続できない」「できても干渉でやたら低速」となりかねなかったのです。「11a/n」までは実用的とも言えますが、「11ac」の高速通信では「11b/g」と同様、「普及するほど悪くなる」という状態になることが危惧されたのでした。

もっとも、悪い展望ばかりということではなく、あくまでも「チャンネルボンディング」で「最高速を目指した」場合は「干渉しやすい」というだけのことでした。「11a/n」と同等の2チャンネル分を占有した「11ac」では、「11a/n」より「11ac」の方が高速(基礎編「11ac」に関する「Q」の表を参照ください)、そして環境が許せばそれ以上を望めるのですから、「11ac対応機器」にしておくメリットは、十分あったといえるでしょう。

そして迎えた「11ax」は、この「チャンネル」ごとの制御だったものを、より細かい「サブキャリアごとの制御」に切り替えることで、「最高速度」などではなく、体感できる「実効速度」の高速化を成し遂げる規格となりました(詳しくは基礎編の「11ax」に関するQAより「OFDMA」についての記述をご参照ください)。一度は廃止した「2.4GHz帯」も再利用し、加えて新たに「6GHz帯域」も追加され、チャンネル重複による混信・速度低下を避けるための工夫を重ねた通信規格として広まりつつあります。

Q:無線LANは「雨に弱い」?

A:統計的には、その傾向が見受けられます。が、「水」そのものが理由では無いようです。

「雨が降ると速度が落ちたり、接続できなくなったりする」とのお話が散見されます。インターネット上などでは確かに多く報告例があり、その理由として「雨が電波を阻害する」「吸収する」ということがまことしやかに語られていますが、正確な答えでは無いようです。
というのも、「降雨による減衰率」については、「時間雨量100mm(視界が0になるほどのドシャぶり)」であっても、2.4GHzで「0.01db/km」、5GHzで「0.2db/km」程度なんだとか。おかげで10km以上の屋外用長距離通信にも使用されており、「雨が阻害する」のが「雨天時の電波強度悪化」の理由にはなりえません。

※「10GHz」を境に雨に対する減衰率が跳ね上がるため、「10GHz以上」の高い周波数を使用する衛星放送などでは、「降雨による放送視聴不可」が起こります。これは「水」のせいと言えるでしょう。

では、何が原因なのか。
実は「電波の減衰する理由」が数多くの状況によって起きうるため、明確な答えがありません。
一説では、「降雨により電線などの絶縁が悪化。微弱な漏電が起き、それによる電波ノイズが発生しやすくなるため」とも伝えられます(雨天や多湿の際、電線や高圧線の絶縁悪化でわずかに漏電、放電(コロナ放電)が起きるのは、実は当たり前のこととしてあるそうです)。が、降雨量、風の有無、絶縁の性能、電線までの距離等々、環境に著しく左右されるため、明確に計測したり、明言することはほぼ不可能。
結果として、一般的には「雨が邪魔するんだ」「吸収するんだ」といった誤った解釈がまかり通ってしまっているようです。

理由はともあれ、「雨が降ると接続できない」「遅くなる」等の報告例は存在するのですから、「天候悪化で電波状態が悪化する傾向がある」と考えるのが、無難な解釈でしょう。隣室や階上階下で無線LANを使用する際、ギリギリの電波強度で届いているのであれば、雨天時には接続不能になりうることも想定しておきましょう。

Q:【おまけ】チャンネル、チャンネルって。正しくは「チャネル」でしょ?

A:実は「どっちも正解」です。傾向として「通信業界」では「チャネル」、「放送業界」では「チャンネル」と呼称されることが多いだけで、どちらであっても間違いではありません。

ルーターの設定画面や説明書では、「チャネル」と記載されていると思います。本特集では、馴染みやすい「チャンネル」の表記に統一させていただきました。あらかじめご了承ください。

長い間お付き合いいただき、ありがとうございました。
番外編はここで終了となります。

相当な情報量を掲載いたしましたものの、これでも省略させていただいた解説や説明が数多くあります。

さらなるギモンが生まれた方もいらっしゃるかと存じますが、あまりにも専門性に過ぎるため、ここまでといたしました。
より難易度の高いギモンについては、インターネット検索などを活用し、理解を深められることを、お勧めします。

TV同様、パソコンは今後数十年はなくならない「家庭の必需品」にまでなりました。
そして、それとともに歩んできた「無線LAN」も、進化し続け「必需品」となっていくことでしょう。

世界では「Wi-Fi 6(IEEE802.11ax)」をベースとした後継規格「Wi-Fi 7(IEEE802.11be)」の標準化が進行中です。
2024年の標準化を目指しているという話も・・・!

いったい何がかわるのでしょう?高速化?効率化?それとも想像だにしない新機能・・・?まだまだ進化は止まりません。
生活を豊かにする「無線LAN」の世界に、今後も注目していきましょう!

(注意)本掲載内容は2023年1月時点での情報を基に作成しています。また、広く理解しやすい内容とするため、「例外的内容」「特殊な内容」「厳密かつ正確な記述」など、一部の情報についてはあえて要約・割愛している場合があります。あらかじめご了承ください。

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